大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)3800号 判決 1966年2月04日
主文
一、別紙目録記載の家屋につき、被告を賃貸人、原告を賃借人とする、期間の定めのない、賃料一ヶ月金七、〇〇〇円、毎翌月七日支払いの条件の賃貸借契約が存在することを確認する。
二、被告は、原告に対し、右家屋のうち一階部分を明渡し、昭和三九年三月一日から右明渡し済みまで、一ヶ月金三万円の割合による金員を支払え。
三、被告の反訴請求を棄却する。
四、訴訟費用は本訴、反訴を通じ被告の負担とする。
事実
第一、原告の求めた裁判。
主文同旨の判決ならびに主文第二項につき仮執行の宣言。
第二、被告の求めた裁判。
一、(本訴として)原告の請求を棄却する。
二、(反訴として)原告は、被告に対し別紙目録記載の家屋のうち二階部分を明渡し、昭和三九年六月二七日から右明渡し済みまで、一ヶ月金七、〇〇〇円の割合による金員を支払え。
三、(同じく)右家屋のうち一階部分につき、被告を賃貸人、原告を賃借人とする賃貸借契約の存在しないことを確認する。
四、訴訟費用は、本訴、反訴を通じ原告の負担とする。
第三、本訴請求原因
一、原告は、昭和二八年七月七日別紙目録記載の家屋(以下本件家屋という)を訴外島本秀次郎から期間の定めなく賃借し、家賃として、一ヶ月金七、〇〇〇円を毎翌月七日までに支払つていたが、右家屋は、昭和三九年六月二七日被告の所有となり、被告は右賃貸人の地位を承継した。しかるに、被告は、右賃貸借契約の存続を争つている。
二、原告は、昭和三六年二月二〇日本件家屋の一階部分を被告に対し賃料(小料理店用の器具備品の賃料を含み)一ヶ月金三万円、期限昭和三九年二月末日までと定め、いわゆる一時使用の目的で賃貸した。その事情は、原告は、従来本件家屋の一階で小料理店を営んでいたが、幼児を育てるに必要な期間休業することとなり、他方当時料理店に勤務していた被告が独立して他に店を持つ資金を得るため本件家屋で小料理店を営むに必要な期間として、双方一致した諒解に基づきこのように賃貸期間を定めたものである。
三、かりに、前記原、被告間の賃貸借が一時使用のものと認められないとしても原告は、現在すでに子供も手がかからなくなり、他に収入の道もないので、折角高い権利金を支払つて入手した本件家屋で料理店を再開する必要があるので、前記賃貸借の満了期間前六ヶ月ないし一年内の期間中に、原告は、被告に対し口頭で更新拒絶の意思を表示した。
第四、本訴請求原因に対する認否
請求原因第一項の事実は認める。
同第二項の事実中被告が原告主張の日、本件家屋一階を賃料一ヶ月金三万円、期限昭和三九年二月末日として賃借したことは認めるがその他の点を否認する。期間三年間としたのは一応の規準にすぎず、原告主張のごとき諒解はなく、一時使用の賃貸借ではない。
同第三項の事実は否認する。
第五、本訴抗弁および反訴請求原因
被告は、原告に対し昭和三九年八月二八日到達の書面をもつて、原、被告間の本件家屋の賃貸借契約の解約の意思表示と、家賃を同年二月二七日以降一階三万円、二階七、〇〇〇円と合計三万七、〇〇〇円に値上げする旨の意思表示をした。
右解約申入の正当事由は、次のとおりである。
被告が本件家屋を買い受けたのは、小料理店を経営する必要からであるが、その一階部分は調理場および若干の客席を設けるだけの広さしかなく、女子従業員の休憩室更衣室もなく、被告は、やむをえず近所のアパートに宿泊してそこから通つておる状態で不便を極めておるので、二階を使う必要に迫られている。一方原告は某料亭で働いており、妹、子の三人で本件二階を単に住居にしているにすぎないので、この狭い二階から他所へ移るに少しも困難はないのであり もともと原告は、本件家屋を前所有者から買取るよう勧められながら、これを拒絶したのであるから、今日の状態に立ちいたることは十分承知していたものである。
従つて、右解約申入れの後六ヶ月経過した昭和四〇年二月二七日、原、被告間の本件家屋についての賃貸借契約は終了した。
第六、本訴抗弁および反訴請求原因に対する認否。
被告の解約申入れ、および家賃値上げの意思表示が、その主張日時に原告に到達したことは認める。
解約申入れの正当事由としての被告側の事情については不知、しかし同事実があるとしても、被告は、原告が二階に居住していることや階下の広狭の事情を承知の上、本件家屋を取得したのであり、取得前とその便益の事情は何ら異らないのであつて、それらの事情は解約の正当事由にはならない。また、原告側の事情については、本訴請求原因第三項のとおりである。
家賃値上げの点については、正当の理由がないものである。
第七、証拠(省略)
別紙
目録
大阪市南区久左衛門町一八番地の四
家屋番号同町二九番二
店舗兼居宅一棟木造スレート葺二階建
一階六坪二七
二階六坪二七